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歯周病の治療

歯周治療の原則

 歯周病は歯垢(プラーク)が付着することにより歯茎(歯肉)に炎症が生じ、歯茎(歯肉)や歯の周りの骨が破壊されていく病気です。そのままにしておけば歯を失うことになります。原因である歯垢(プラーク)を取り除くことが歯周病治療の大原則となります。これを詳しく言うと、歯垢(プラーク)を取り除くこと、そして取り除き続けることを指します。歯垢(プラーク)を取り除くことがまず「歯周病が治る」のスタートになります。この"スタートになる"という意味は、歯周病は治療すればすぐ治るのではなく治るためにすこし時間が必要だということ意味しています。歯垢(プラーク)により引き起こされた歯茎(歯肉)の炎症が消えるにはすこし期間(少なくとも1~2か月)が必要なのです。つまり、治療を始めたことはすなわちゴールではなく、これから「歯周病が治る」がはじまりますという意味なのです。しかも、炎症が消えるために必要な期間中も歯垢(プラーク)が付着しないようにしていなければなりません。もし途中で歯垢(プラーク)が付着してしまうと治ろうとしている歯茎(歯肉)が治るひまがなくなってしまいます。つまりどんなに良い治療を受けてもその効果がでないということになるわけです。つまり、歯周病を治していくには治療により歯垢(プラーク)を取り除いた後も再び歯垢(プラーク)が付着しないように自己管理をしていかなければならないのです。この自分自身による管理という点が歯周病を生活習慣病の一つと呼ぶ所以でもあります。ともすると自分自身による管理が不十分になりその結果、歯周病がうまく治っていかない、あるいはせっかく治っても再発する、という事態を引き起こすことになってしまいます。歯科の治療というと、歯科医院に行って治療用のいすに座ることが患者さんの役割のすべてと考えてしまいます。虫歯や根の治療あるいは入れ歯を作るなどの時はそのとおりですが、こと歯周病の治療においてはそれだけでは十分ではないのです。家に帰ってからも"宿題"があるわけで、それは家で行う"治療"でもあります。患者さん側からすれば病気を治してもらうということで、もちろん歯科医師側からも病気を治療するということではありますが、歯周病治療は"患者参加型の治療"なのです。この点も糖尿病をはじめとする生活習慣病の一つといわれる理由にもなっています。
 自己管理が不十分だとなぜいけないのか。それは歯周病の原因である歯垢(プラーク)とは口の中に住みついている細菌であり、生きている細菌の集団であるからです。治療ではそれら細菌の中の歯周病を引き起こす細菌を取り除いていきます。しかし、すべての細菌を取り除くことはできず、常に外からも侵入してきています。また、歯周病を引き起こす細菌群は生きているため常に増殖しようとしています。そのため、それらをつねに少ない数に維持し(=十分な自己管理)病気の発症を抑える(=健康を維持する)ようにしている必要があるのです。いままでに行われた研究からも自己管理を伴わない歯周病治療は歯周病を治すことができないということがわかっています。この自己管理は治療中や治療後のメインテナンスという定期管理という段階になっても必要なことなのです。患者さんの"宿題"は治療のためから予防のために目的は変わりますが、一貫して最も重要なものなのです。

[さらに詳しく]

 プラークを除去し再び付着しないようにすることは歯周治療を成功させ、治療結果を維持するための大原則である。ここではあらためて「プラークが原因である」ということを病因論の立場から見てみる。
 歯周病の病因論としての4つの段階:⑴死体解剖による研究、⑵動物実験による研究、⑶臨床研究、⑷疫学研究、を代表的な研究を揚げて検証してみる。
プラークの付着と侵入の図 ⑴死体解剖による研究: Waerhaug(1977)は16人から歯周疾患により抜去された歯27本を調べ、プラークが歯肉縁下へ侵入した位置と付着の位置との関係を調べた。その結果全ての抜去歯において、プラークが侵入していた最先端の位置と付着が喪失している根面の位置とは相関関係があり、付着の喪失している部分からとても近いところ (CEJ付近:0.3〜1.5㎜、根尖付近:0.2〜1.0㎜) にプラークが存在していたことを示した。 また、歯肉縁上のプラークコントロールが十分になされている部位では歯肉縁下プラークの存在がなく付着の喪失も最小限であった。プラークの存在が歯周疾患を引き起こし、プラークが存在しないことが疾患のないことであることを示した。 ⑵動物実験による研究: Lindheら(1975)はビーグル犬を使用した4年間にわたる実験を行った。実験では20頭のビーグル犬を10頭づつテスト群とコントロール群とに分けた。テスト群では4年間の間1日2回の歯肉縁上のプラークコントロールと1週間に1回のPMTCを続け、コントロール群では何もしなかった。その結果、テスト群では正常な歯肉を維持したが、コントロール群では大きな付着の喪失が見られた。毎日繰り返し行われたプラーク除去により炎症のない歯肉が作り上げられ維持されたことがわかる。 歯槽骨頂とCEJとの距離
 ⑴死体解剖による研究:
Waerhaug(1977)は16人から歯周疾患により抜去された歯27本を調べ、プラークが歯肉縁下へ侵入した位置と付着の位置との関係を調べた。その結果全ての抜去歯において、プラークが侵入していた最先端の位置と付着が喪失している根面の位置とは相関関係があり、付着の喪失している部分からとても近いところ (CEJ付近:0.3〜1.5㎜、根尖付近:0.2〜1.0㎜) にプラークが存在していたことを示した。 また、歯肉縁上のプラークコントロールが十分になされている部位では歯肉縁下プラークの存在がなく付着の喪失も最小限であった。プラークの存在が歯周疾患を引き起こし、プラークが存在しないことが疾患のないことであることを示した。
 ⑵動物実験による研究:
Lindheら(1975)はビーグル犬を使用した4年間にわたる実験を行った。実験では20頭のビーグル犬を10頭づつテスト群とコントロール群とに分けた。テスト群では4年間の間1日2回の歯肉縁上のプラークコントロールと1週間に1回のPMTCを続け、コントロール群では何もしなかった。その結果、テスト群では正常な歯肉を維持したが、コントロール群では大きな付着の喪失が見られた。毎日繰り返し行われたプラーク除去により炎症のない歯肉が作り上げられ維持されたことがわかる。
 一方、プラークが蓄積することで歯肉炎が発生し最終的に歯周組織破壊が生じた。プラークが蓄積しなかった部位では歯肉の健康を維持することが可能だったという事実は、1900年代に人を対象にして行われた短期間の研究(Löe et al. 1965、Theilade et al. 1969)での結果を拡大支持することとなった。
プラーク形成の図 ⑶臨床研究:
LindheとNyman(1975)は、進行した歯周疾患患者75人に対して十分なプラークコントロールのもとに行われた歯周治療が最良の結果を得るかどうかを調べた。治療は初期治療および外科処置を行い、治療後は5年間にわたり定期的(1回/3〜6ヶ月)にメインテナンスが行われた。プラークコントロールを徹底するために、初期治療の間は頻繁にアポイントメントを取り、厳密なプラークコントロールを行うための説明と動機付けが繰り返し行われた。その結果、実験開始時にPPDが5.7±0.34㎜であったが、メインテナンス開始時には<3㎜になっており、その後5年間にわたってその値が維持された。十分なプラークコントロールによるプラーク除去が歯周治療を成功に導き、良好な状態を維持することを示した。  逆に、歯肉縁上プラークコントロールを伴わない歯肉縁下デブライドメントだけをおこなった場合についての臨床研究もある。あえて口腔衛生習慣を変えずに一度だけ歯肉縁下デブライドメントを行い、PPD値の変化を調べた。どの研究においても治療により得られた細菌叢の減少による一時的なポケット減少が見られたが、1〜2ヶ月でそれが元に戻ったことを報告している。
 ⑷疫学研究:
「歯周病のすがた」の項に詳述。
以上病因論的な見地からもプラークが歯周疾患の病因であることが明らかにされてきており、プラークを除去することが歯周治療の原則であることがはっきり示されている。
 さらにここではプラークの形成についても見てみる。プラークはどのように形成されていくのか。この形成過程を知ることは治療において重要な点であり、患者自身による口腔衛生管理の考え方や方法にも関わってくる点である。プラークを除去した歯面には数分以内にペリクル(獲得被膜)が形成される。ペリクルの付着は、その本来の目的ではないが、結果として歯面をコンディショニングすることとなり細菌群の付着を引き起こす。まず最初に、口腔内に浮遊している菌、特にグラム陽性球菌の付着が始まる。続いて、グラム陽性桿菌が付着してくる。24時間ほど経過するとActinomycesを主体とした小さな集落が形成され始まる。集落が形成され始まると、付着による細菌の発育や合成が活発化しさらに増殖していく。2〜3日すると、プラークの中には嫌気性環境が完成されてくる。4日目ぐらいから爆発的に増殖して大きな集団を形成するようになる。このころから嫌気性グラム陰性菌が優勢を占めるようになる。細菌の連続的付着や成熟が続くとプラーク内部ではさらに嫌気状態が完成度を増し、栄養や水分の濃度勾配も完成(プラーク中の代謝経路の完成)されてくる。プラークの不均一性が完成してくるとバイオフィルムという存在形式を取るようになる。バイオフィルム中で細菌はグリコカリックスを排泄し、これによってバイオフィルムを結合しバイオフィルム中の細菌集団を維持する。このような状態になると、バイオフィルムは細菌を殺菌剤から保護し、他のタイプの微生物細胞も取り込み、排泄物を代謝すると同時に、自分自身の排泄物を産生し、この排泄物を他の細胞が順に利用していくという一つのエコシステムが完成する。このように成熟したプラークは歯周疾患を引き起こすのに充分な力を持つ。そしてバイオフィルムは1週間もあれば充分に完成するのである。このようにプラークを蓄積したままにしておくと、プラークは成熟し歯周疾患を発症・進行させていくことになる。
口腔清掃と歯肉炎の発症では、進行を止め、治癒に導くにはどのくらい頻繁に除去していけばよいのか。Langら(1973)は、対象者を12時間、48時間、72時間、96時間ごとに口腔清掃を行う4つのグループに分けて、それぞれの時間間隔と歯肉炎の発症との関係を調べた。それによると、48時間毎かそれよりも頻繁にプラークコントロールを行った群では、平均プラーク水準が同じにもかかわらず72、96時間毎の群と比べて歯肉炎を発症していないことが示された。また、同じような間隔で行ったプラークコントロールでは、48時間毎かそれよりも頻繁にプラークコントロールを行った群のほうが平均プラーク水準が同じにもかかわらず72、96時間毎の群と比べてプラークの蓄積量が少ないと報告した。
   また、プラークはどのように付着してくるのか。これについてもある程度はプラーク形成のパターンが知られており、そのパターンを把握しておけばより効果的にプラークコントロールを行うことが可能である。すなわち、➀たいていの場合、プラークの沈着は小臼歯や大臼歯の隣接面から始まる、下顎においては大臼歯の舌側面からも始まる、➁ほとんどのプラーク量は最初の4日間で形成され、それ以後は緩やかに成長していく、➂下顎の方が上顎よりも多くのプラークが形成され、口蓋部で最も少ない。この違いは4日目以降も持続する、➃プラーク形成は隣接する歯肉の健康状態に影響される、である。さらに、口腔衛生の方法もより効果的に行うことが重要であり、自己流の歯磨きではたとえば歯間部のプラークは十分に除去されないことが多い。自己流の方法で除去されるのはたいてい場合疾患感受性の低い部位に蓄積したプラークであることが多い。キーとなるリスク歯面への2日に1度の適正な口腔清掃は、主に非リスク歯面に集中した毎日のブラッシングよりも優れているのである。このようにプラークの量や質の成熟期間、付着パターン、方法などを考慮した上で口腔衛生指導を行うことがプラーク除去をより効果的に行う上で大切である。

【参考文献】

Tooth brushing frequency as it relates to plaque development and gingival health  Lang et al. (1973)
Consistency of plaque distribution in individuals without special homecare instruction  Cumming & Löe (1973)
Subgingival plaque and loss of attachment in periodontosis as evaluated on extracted teeth  Waerhaug (1977)
The effect of plaque control and surgical pocket elimination on the establishment and maintenance of periodontal health. A longitudinal study of periodontal therapy in cases of advanced disease  Lindhe & Nyman (1975)
Plaque induced periodontal disease in beagle dogs  Lindhe et al. (1975)
Plaque removal by dental floss or toothpicks. An intra-individucal comparative study  Bergenholtz & Brithon (1980)
Effect of controlled oral hygiene procedures on caries and periodontal disease in adults. Results after 6 years  Axelsson & Lindhe (1981)
Recolonization of the subgingival microflora after scaling root planning in human periodontitis  Sbordone et al. (1990)
On the prevention of caries and periodontal disease. Results of a 15-year longitudinal study in adults  Axelsson et al. (1991)
Patterns of de novo plaque formation in the human dentition  Furuichi et al. (1992)

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