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歯周病の特徴

歯周病の特徴

 歯周病は3Sの疾患と言われます。3Sとは「Silennce=沈黙」、「Social=社会性」、「Self control=自己管理」のそれぞれの頭文字をとったものです。これといった自覚症状がなく進行し、広く多くの人たちに広まっており、自分自身で管理できる、病気であるという意味です。自覚があるとすれば歯磨きをしたときに出血するといった程度です。この際の出血も多くの場合それほどの量ではありませんので、あまり気にならないでしょう。また、よほど進行しないと痛みも感じません。歯周病の発見を遅らせる原因の一つがこの「痛みのないこと」です。それは、ヒトは痛みそのものを自分自身の病気や治癒の程度をはかる指標にしていることが多く、「痛まない」ということは病気がないあるいは治ったと考えてしまう場合が多いからです。逆に言えば、気づいた時にはすでにある程度進行しているということなのです。
 次に、「社会性がある=多くの人々にみられる」ですが、歯周病は口腔衛生と密接に結びついており、すなわち口腔清掃に大きく関係しているわけです(☛歯周病のリスク)。誰もが充分に口腔清掃を実践できているわけではないということが、広く多くの人たちに歯周病が広まっている最大の原因となっています。このことは「自分自身で管理できる」という3番目の項目にも関係してきます。自分自身で口腔内を清潔に保つことができれば病気の発症を抑えることができ、自分自身で病気を管理することができるというわけです。
 歯周病の原因は歯垢(プラーク)という生きている細菌の集合体であり、けっして食べカスなどの食物残渣ではありません。これらの細菌は口の中に住みついており、口の中にはだれでも数百種類の細菌が住みついています。これらは常在菌と呼ばれ、ヒトは体の中の様々な部分にこのような常在菌を保有しています。これらの細菌のうち"悪さをする"細菌によって歯周病が引き起こされるわけです。これらの細菌は口の中いろいろなところに隠れていますので、すみずみまで口の中を清潔にしなければならないのです。特に歯と歯茎(歯肉)の境目を清潔にする必要がありますが、歯はさまざまな形態をしているためその境目もさまざまな形態をしています。そこに自分自身で行う管理の難しさがあります。上手な口腔清掃法を身につけて実践できれば、病気の発症を未然に防ぐことができ、あるいは歯周病が治った後も再発せずに健康な状態を保つことができるのです。

[さらに詳しく]

 平成23年度歯科疾患実態調査において歯周疾患の存在が幅広い年齢層にわたって見られると報告されている。これは平成23年度に限ったことではなく調査が行われるごとにみられる結果である。それによると、すでに小学校低学年で約30%の児童にプロービング後の出血(BOP)が見られることが報告されており、20歳代でPPD ≧4㎜を有する率が約15%に見られ、その後30歳代になるとPPD ≧6㎜も見られるようになる。50代後半になると4㎜〜6㎜を合わせると50%以上となり、その後85歳以上まで続く。この傾向は世界的に見ても同様である。歯周疾患は幅広い年齢層にひろくみられる疾患として世界中で認知され疫学統計が取られている。歯周疾患の自覚症状としてあげられるものは、歯磨き時の出血、口の中の粘つき感、口臭、歯肉の発赤・腫脹、ときどき歯肉が腫れる、歯と歯との隙間がひろくなった、などである。これらはどれも痛みを伴わず、ある程度進行した歯周疾患にみられる症状である。AL lossが見られるようになるとさまざまな自覚症状が出てくることが多いが、これはすでに歯周炎に罹患している状態である。
 Lövdal(1961)たちはオスロの労働者約1500人を対象に口腔衛生状態、歯周疾患状態、歯槽骨の喪失状況などを調べた。研究では対象者を口腔衛生状態によって"よい"、"ややよい"、"不良"の3つの群に分けて、2〜4回/年の口腔衛生指導、歯肉縁上デブライドメントを行った。その結果、歯周疾患が認められたのは自己管理の"よい"群では10%以下で、"不良"の群では約50%に認められた。Suomiら(1971)は350人を対象とした研究で、専門家による適切な口腔衛生指導を受けておらず口腔管理が十分でない人々には歯肉炎症が多く見られるとしている。自己流による口腔衛生管理では歯肉炎が十分に防げないことを示しており、口の中の形態や構造あるいは口腔衛生管理方法等により、口腔衛生状態が左右される。Baderstenら(1984)は28歳〜64歳までの進行した歯周疾患を有する49人を対象に研究を行い、3ヶ月間のあいだ繰り返し口腔衛生指導をおこない、その後歯肉縁下デブライドメントを行った。研究は3ヶ月ごとの再診査・再指導を行いながら2年間続けられた。その結果、繰り返し口腔衛生指導を行うことでプラークスコア(%)は、初診時60〜80%だった値が約5%にまで下がった。このことにより歯肉炎症も改善された。3か月に1度の指導を受けながら、自分自身の口腔管理により歯周疾患の管理ができたわけである。プラークが付着することで歯周疾患が発症することは動物でも人でも明らかであるが、プラークコントロールにより口腔内を管理することで疾患を改善、予防することができることもまた明らかである。十分な自己管理を保つにはそれを行う際にさまざまな方法(歯科医院の定期的な受診、VD・パンフレットの視聴など)を取り入れたりしながら、その結果を自分自身にフィードバックすることで常に自己管理状態をチェックしていることが必要である。Nowjack-Raymerら(1995)は動機づけのための自己評価法についての研究を行った。被験者を2つのグループに分け、一つのグループでは歯肉出血を評価基準とし、別のグループではプラークの蓄積を評価基準とした。そして2つのグループは口腔衛生指導と個別カウンセリングを3か月ごとに受けた。それぞれの評価基準をもとに自身の口腔衛生状態を自身で評価し、その水準を保つようにした。その結果、それぞれのグループで50~60%近い改善があり1年後もそれを維持していたことが示された。自己評価のアプローチが長期的な歯の健康状態を改善維持するのに有効であることを示唆している。

【参考文献】

Combined effect of subgingival scaling and controlled oral hygiene on the incidence of gingivitis  Lövdal et al. (1961)
The effect of controlled oral hygiene procedures on the progression of periodontal disease in adults : Results after third and final year  Suomi et al. (1971)
Plaque induced periodontal disease in beagle dog  Lindhe et al. (1975)
Lifesthyle and periodontal health status of Japanese factory workers  Shizukuishi et al. (1980)
Oral hygiene instruction of adults bi means of a self-instructional manual  Glavind et al. (1981)
Effect of nonsurgical periodontal therapy II. Severely advanced periodontitis  Badersten et al. (1984)
Frequency distribution of individuals aged 20-70 years according to severity of periodontal disease experience in 1793 and 1983  Hugosson et al.(1992)
Improved periodontal status through self-assessment  Nowjack-Raymer et al. (1995)
Oral Health Surveys Basic methods (1997)
Global risk factors and risk indicators for periodontal disease  Albandar et al. (2002)
平成23年度歯科疾患実態調査

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