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歯周病の特徴

歯周病の進行

 歯周病の進行はほとんどの場合それほど速くはありません。あっという間に悪くなる病気ではなく、多く場合ある程度の時間をかけて進んでいきます。これといった症状もなく静かにじわじわ進行していきます。しかし、進行がそれほど早くないということが自分自身で歯周病に罹っているかどうかがわかりにくい原因でもあります。ある日、ふと気がつくと歯茎(歯肉)が下がっていて歯と歯の隙間が空いている、ということになります。その進行程度は歯周病自体の病状によっても異なりますし、人によってあるいは、一人の人の口の中でもその場所によって異なります。また、歯周病は他の病気(たとえば糖尿病)との間でお互いに影響しあう関係があるためそのことも進行にかかわってきます。たとえば、ある時少しだけ進行し、その後ずっと進まないままの場所があったり、だんだん時間とともに進む場所があったり、段階的に進む場所があったりとそのパターンは一人の口の中でも様々です。さらに決定的にな事はしっかりとした口腔管理を行っているかどうかという点です。口腔管理が不十分だと通常その進行はより大きくなります。あるいは、治療後のメインテナンスプログラムを受けていないと後戻りや再発が生じてきます。
 歯周病を引き起こす細菌群は常在菌と呼ばれ、常にヒトの口の中に存在している菌です。ヒトは消化管の中にたくさんの細菌と共存していますが、口も消化管の一部ですから同じように細菌が共存しているのです。歯周病はこのような常在菌による日和見感染の一つです。日和見感染とは普段悪さをしない常在菌が周囲の環境やヒトの体調などにより優勢になった結果、疾患を引き起こすというものです。
 歯垢(プラーク)によって引き起こされる歯茎(歯肉)の炎症が歯周病の本体ですが、その炎症が大きく進んでいる場所ほど急に腫れたり痛みが出る可能性が高くなります。急性の症状が強く出た時などは3~4日間顔全体が腫れたりすることもあります。高度に進行している場所ほど急性の症状を引き起こしやすくなり、これを何度も繰り返すなどして悪化していくとついには歯を喪失することになってしまいます。痛みや腫れなどの急性の症状はたいていの場合数日~1週間で消えてくるので、その後は治ったと考えてしまうこともあります。しかし、これは治ったのではなく単に症状が消えただけで原因となる歯垢(プラーク)は依然として口の中に潜んでおり、症状が出る前と比べて一段階悪くなっている場合が多いのです。また、病気の進行がゆっくり進む場所では、何の症状もなく静かに進行していく場合もあります。気が付くと、なんとなく歯が動く、咬むと力が入らない、違和感がある、などはっきりした症状で見られない場合が多いのです。

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頬側のAL loss歯周疾患の進行についてのいくつかの疫学研究をあげてみるが、どれも個人あるいは集団を経年的に追跡することで歯周疾患の"すがた"を捉えようとしたものである。
 Löeたち(1978)は歯周疾患の進行についてノルウェー人を対象とした調査を行った。結果は、17歳の被験者の半数にごくわずかであるが頬側にAL lossが見られたほか、40歳では約1.5㎜のAL loosが見られ、平均したAL lossは0.08〜0.1㎜/年であった。次に、彼らは歯周疾患の自然な進行程度を調べるために調査を行った。今まで一度も歯科治療を受けたことがない集団としてスリランカの茶園労働者を選んで調査を行った。161人、14〜30歳を対象に15年間にわたって歯周疾患の進行程度を調べた。一度も歯科治療を受けたことがない対象群であるため多量のプラークや歯石の沈着が見られたが、全体の平均AL lossは0.1〜0.3㎜/年であった。彼らは対象者を進行度別に3つの群に分けた。急速に進行する群0.1〜1㎜/年(全数の8%)、中間の群0.05〜0.5㎜/年(全数の81%)、緩慢に進行する群0.05〜0.09㎜/年(全数の11%)である。またこの対象群では40歳で喪失歯20本、45歳で無歯顎となっていた。 AL loss 値
 Lindheら(1983)は治療経験のないスウェーデン人64人とアメリカ人36人を対象に歯周疾患の進行を観察した。スウェーデン人はBL時と3年目、6年目で、アメリカ人はBL時と1年目に測定が行われた。スウェーデン人では最初の3年間で全体の3.9%の部位で≧2㎜のAL lossが見られ、35.1%の部位でAL lossが見られなかった。3年目から6年目までの3年間では1.6%の部位で≧2㎜のAL lossが見られ、57.4%の部位でAL lossが見られなかった。さらに6年間全体で11.6%で≧2㎜のAL lossが見られ、20%の部位でAL lossが見られなかった。同様にアメリカ人では1年間に3.2%で≧2㎜のAL lossが見られ、26%の部位でAL lossが見られなかった。結果から、治療を受けていないからといって、すでにより大きいAL lossを示した部位がよりAL lossが少なかった部位に比べて、この先もさらに疾患の進行がみられるとは限らないことが示された。歯槽骨レベルの平均変化
 Papapanou(1989)らはかかりつけ歯科医を持っている201人のスウェーデン人を対象にレントゲン写真上の歯槽骨レベルを比較することで10年間にわたる歯周疾患の進行を調べた。対象者は25〜65歳で対象部位は6727部位であった。その結果、全年齢で平均して0.07〜0.14㎜/年の骨喪失が見られた。また、10年間で全体の約8割に≧4㎜、約7割に≧6㎜の歯槽骨喪失が見られた。逆に全体の約2%の対象者では≧2㎜の歯槽骨喪失が見られなかった。他にも、167人を調べ、≧2㎜/28年/13.3%、≧3㎜/28年/3%、≧4㎜/28年/1.2%とした研究や、154人を20年間調べた(22.5から42.1歳)ところ、平均5㎜のAL lossがみられたとする報告がある。
 いずれの研究においても歯周疾患の進行は一人の口の中あるいは集団の中で一律に進行するわけではなく、進行が早く進む部位あるいは人と遅く進む部位あるいは人とがあることがわかってきた。これを部位特異性と呼び、歯周疾患が部位特異的に進行する疾患であることがはっきりしてきたわけである。
 1980年代後半以降になり、歯周疾患が部位特異的に進行する疾患であることがわかるようになると、今までに行われた歯周疾患の疫学研究が見直されるようになった(☛歯周病のすがた)。それまでの研究調査で得られた数値は、集団あるいは1人の口腔内の平均値に過ぎず、個々の部位の進行を表したものではなった。しかし、歯周疾患は大多数の部位ではそれほど急速な進行を示さず、緩やかに進行していくか、あるいはほとんど進行しない、という病態であることがわかってきたため、平均値(少数の大きく進行する部位があっても進行の緩やかな部位が多ければ平均値では低い値となってしまう)では必ずしもその集団や個人の歯周疾患の進行状態を表現できないのである。つまり、部位によっては最後まで進行せずに終わる部位や時間とともに進行してゆく部位、あるいは少し進行するとその後変化せず、ある時また少し進行するが、その後はまた変化しない部位、しかもその変化の大きさはさまざまである、などいろいろな進行状態を示す部位が一人の口腔内に混在しているのである。さらに概略としては、大きく進行する部位は10〜15%で、約8割はそれほど進行しない部位であると考えられており、全顎で急速に進行する歯周疾患を有する人の割合は数%と見られている。 個々の部位の進行
 PPD、AL等の指標を使って慎重に状態を把握していかなければ歯周疾患の病態を掴むことはできず、治療においては本当に治療の必要な部位をしっかりと把握して行わなければならない。
 そして、ここ10年ほどにかけての研究から、進行のパターンは個人個人によりあるいは部位ごとに異なり、その進行に影響するリスクの程度が疾患進行に大きく関係してきているのではないかと考えられるようになった。このリスクという考え方が歯周疾患と全身的疾患との関係についての研究へと進んでいくことになる。

【参考文献】

The natural history of periodontal disease in man. The rate of periodontal destruction before 40 years of age  Löe et al. (1978)
Diccering profiles of periodontal disease in two similar South Pacific island population  Cutress et al. (1982)
Progression of periodontal disease in adult subjects in the absence of periodontal therapy  Lindhe et al. (1983)
New concepts of destructive periodontal disease  Socransky et al. (1984)
Natural history of periodontal disease in man. Rapid, moderate and no loss of attachment in SriLankan laborers 14 to 46 years of age  Löe et al. (1986)
A 10-year retrospective study of periodontal disease progression  Papapanou et al. (1989)
Clinical periodontal status of regularly attending patients in general dental practices  McFall et al. (1989)
Natural history of periodontal disease in adults:findings from the Tecumseh periodontal disease study,1957-87  Ismail et al.(1990)
Evaluating periodontal status of US employed adults  Brown et al. (1990)
The prevalence of periodontal attachment loss in an lowa papulation aged 70 and older  Hunt et al. (1990)
Frequency distribution of individuals aged 20-70 years according to severity of periodontal disease experience in 1973 and 1983  Hugosson et al. (1992)

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