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ししゅう

管理の必要性

 歯周治療は一連の治療が終了した後にメインテナンスという健康維持の段階に入ります。ここではその健康維持についてお話します。
 歯周病が治った後の歯茎(歯肉)の健康を維持するためには自己管理は欠かせません。治療後も自己管理をしっかりしなければまた歯周病になってしまいます。ヒトの口の中には数百種類の細菌が生きて生活をしています。彼らは数を増やし、種類を複雑化させることで自分たちを守り、口という過酷な生活環境の中で生き延びようとしています。その結果、細菌は大きな集団となっていきます。その細菌の中の歯周病を引き起こす細菌が大きな集団を形成してくると歯周病を引き起こすわけです。細菌はヒトが成長する何倍もの速さで増えていきます。たとえば、48時間つまり2日もあれば何百倍にも増えてしまうのです。口の中に侵入してきたり生き残った細菌があっという間に増え、もとの細菌集団に後戻りしてしまうのにたいした時間はかかりません。後戻りした細菌集団は再び歯周病を引き起こすことになります。これが常に自己管理をしっかりする必要がある理由なのです。細菌は常に侵入してきていますし、生き残ったわずかな細菌も数を増やそうと虎視眈々とその機会を狙っているわけです。細菌は4~5日そのままにしておけば歯周病を引き起こすのに十分な力を持った集団となります。つまり4~5日間自己管理が悪かったりするとそれだけで歯周病がスタートしてしまうのです。このような細菌たちとの"攻防を制する"ことが口腔衛生管理の本質なのです。この攻防を制しないと歯茎(歯肉)の健康は維持できません。なんとかこうならないように上手に管理していきたいところですが、口の中の構造や歯の形は複雑で、まして直接見えない部分も多く、なかなか自分だけで十分に管理することは難しいわけです。そのため、ある程度の間隔で専門家によるチェックを受ける必要が出てきます。これをメインテナンスと呼び、歯科医師や歯科衛生士により定期的に口の中の状態をチェックすることを言います。この定期診査の間隔は口の中の状態によりことなりますから個人個人で異なります。この専門家によるチェックと患者さん自身によるプラークコントロールが歯周病の再発を防ぎ、健康を維持するのに必要なのです。

[さらに詳しく]

   歯周疾患が細菌の集団であるプラークによって引き起こされることは明らかであり、治療の基本が歯肉縁上・縁下のプラークの除去であることはすでに示されている。メインテナンス治療が歯周疾患の進行を防ぐうえで重要な役割を果たすことは以前から多くの長期臨床研究により示されてきている。そのうちのいくつかを見てみよう。5年間に於ける歯肉指数の推移
 Lövdalらは1500人を対象に口腔衛生状態、歯肉の状態、歯槽骨の喪失、歯の喪失を調査した。まず実験開始時に、厳密な口腔衛生指導を行い、熟練者による綿密な歯肉縁上・縁下のデブライドメントが行われた。その後、2〜4回/年の来院時ごとのデブライドメントと口腔衛生指導が5年間にわたって続けられた。その結果、デブライドメントと管理された口腔衛生指導の共同効果が歯肉炎の発生と歯の喪失を減少させたことを明らかにした。また、この研究ではホームケアの状態によって対象者を分けて5年間の結果を報告しているが、自身のホームケアの習慣があまりよくない群においてさえも定期的管理を受けることでいくらかの改善が見られたことを報告している。
 AxelssonとLindheは、2−3ヶ月に1度の口腔性指導と専門家によるデブライドメントというメインテナンスプログラムを受けた群とメインテナンスを伴なわず症状の改善だけを行う従来の歯科治療を受けた群を6年間にわたり比較した研究を行った。対象は中等度の歯周疾患を有する456人で、かれらは初期治療や厳密な口腔衛生指導を受けた後に歯周外科手術が行われた。外科手術後2ヶ月目から、対象者はメインテナンスプログラムを受けた群(実験群)310人と受けなかった群(対照群)146人に分けられ、それぞれをさらに3つの年齢群(≦35歳、36—59歳、≧50歳)に分けて調査が行われた。結果、プラークスコアについては実験群では一貫して低い値を示していたのに比べて、対照群では高い値を示していた。歯肉炎指数においても実験群では0であったのに対して、対照群では歯肉の状態の改善はみられなかった。さらに、アタッチメントレベルに関しては対照群では大幅な付着の喪失が見られたが、実験群では付着レベルは維持された。健康な歯周組織を維持するについて、メインテナンスプログラムがかかせないことを示した。
 また、メインテナンスをうけていない患者には疾患再発の可能性の高いことも報告されている。中等度の歯周疾患を有する44人に対して、口腔衛生指導と歯周初期治療が施された。その後しっかりとしたメインテナンスが行われないままにあったが、5年経過後ふたたび歯周検査が行われた。その結果、プロービングデプスの増加や分岐部病変の再発などが見られた。骨の喪失率
 同じようにメインテナンスプログラムを受けなかった患者を対象に骨喪失の程度を調べた研究では、23人を対象に歯周治療終了後の5年後にレントゲン写真上で歯槽骨のレベルを測定した。その結果、歯冠長の約50%の骨喪失あるいは歯の喪失がみとめられた。
 このように研究結果から、歯周治療後のメインテナンスプログラムを怠ると歯周治療により治癒した状態を維持できないばかりか再び悪化していくことがわかる。つまり、歯周治療を受けたことが自体が無効になったことを意味している。  補綴処置を行った患者に対しても専門家によるメインテナンスプログラムの有効性は明らかにされている。10年間にわたって114人を追跡した研究においてもメインテナンスプログラムにより歯周組織の健康や補綴処置の安定が保たれたことが示されている。
 さらに、メインテナンスを受けていない人あるいは集団への研究を見てみると、メインテナンスを受けている群と比べて歯を失う本数が10倍になり、付着の喪失量が10倍になることが示されている。また、外科処置を受けた後にメインテナンスを受けていない群では約3倍の付着の喪失が見られることが明らかにされている。中等度の歯周炎を有する77人に対して初期治療、歯周外科を行いそ異なるポケット値のパーセンテージ分布の後、メインテナンスプログラムに組み込まれた52人と非メインテナンス群25人の3年ごと6年後の歯周組織を比較した研究を見てみる。メインテナンス群では最初の2年間は1/2ヶ月、その後の4年間1/3ヶ月来院し、口腔衛生指導と専門家によるデブライドメントを受けた。非リコール群はなにか問題があるときだけ来院した。その結果、リコール群では99%の歯面でALの改善・維持が見られたが、非リコール群では半分以上で2−5㎜のAL lossがみられた。また、40%以上の部位で≧4㎜のPPDを示した。
 歯周疾患を治療した後の患者においては管理されたメインテナンスプログラムを実行することが歯周疾患の再発や進行のリスクを低くし、治療効果を長期間維持するために必要であり最も重要なことである。歯周疾患に罹患していた時点ですでにリスクの高いことをしめしていることを忘れてならない。適切な専門家によるデブライドメントと患者自身による縁上プラークコントロールが必要とされるのである。

【参考文献】

Combined effect of subgingival scaling and controlled oral hygiene on the incidence of gingivitis Lövdal et al. (1961)
Periodontal surgery in plaque-infected dentitions Nyman et al. (1977)
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Unterated periodontal disease. A longitudinal study Becker et al. (1979)
A longitudinal study of combined periodontal and prosthetic treatment of patients with advanced periodontal disease Nyman & Lindhe (1979)
Periodontal conditions and carious lesions following the insertion of fixed prostheses : 10-year follow-up study Valderhaug (1980)
Effect of controlled oral hygiene procedures on caries and periodontal disease in adults Axelsson & Lindhe (1981a)
Tooth loss in 100 treated patients with periodontal disease in a long-term study McFall (1982)
Periodontal treatment without maintenance. A retrospective study in 44 patients Becker et al. (1984)
Bone loss following periodontal therapy in subjects without frequent periodontal therapy in subjects without frequnent periodontal maintenance De Vore et al. (1986)

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